研究概要 |
本年度は、Southeast Asia West Pacific海域におけるサンプリング及び本格的な分子系統解析・集団遺伝学的解析を行った。サンプリングは、フィリピン6地点、インドネシア1地点、フレンチポリネシア6地点)から造礁サンゴ4種,ヒトデ類5種、ナマコ9種類を採集した。ドイツミュンヘン大学に7カ月間滞在し、アオヒトデ類3種を対象に集団解析・分子系統解析を行った。アオヒトデを、インド・太平洋計23海域、ゴマフヒトデを11海域、ムラサキヒトデを2海域、合計765個体を解析した。核およびミトコンドリア多遺伝子座に基づく系統地理解析・集団解析を行った結果、ゴマフヒトデとアオヒトデの種間関係はミトコンドリアの遺伝子座及び核イントロンでは種判別が不可能であったが、マイクロサテライトマーカーの解析により、現在では種分化していることが示唆された。ミトコンドリア遺伝子より最終氷河期の海面下降によるインド洋と太平洋の分離によってできたと考えられる2つのクレードが見つかったが、各々にゴマフヒトデとアオヒトデ両種のハプロタイプが混在していることから、海面が低くなっていた段階では、完全には生殖隔離が成立しておらず、インド洋・太平洋それぞれの集団内でゴマフヒトデとアオヒトデの交雑は起こっていたと考えられる。その後海面が上昇したのちはゴマフヒトデとアオヒトデの生殖はほぼ完全に隔離して種が成立するとともに、両種の分布域は爆発的に広がった。さらに、種の分布拡大とともに、インド洋側の祖先遺伝子型を持つ個体からオレンジ色のアオヒトデなど、近縁種への種分化も徐々に進行したと考えられる。一方種内の遺伝構造は非常に弱く、東インドネシア側と西太平洋の間で強い遺伝子流動が示唆された。さらに、シカクナマコに関しては、久米島・沖縄本島・石垣島間で強い遺伝構造が見られ、黒潮を通じたconnectivityが限られていることが分かった。
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