本研究では、脱植民地期のミクロネシアで頻発している土地訴訟において、人々が土地にまつわる伝統的知識をいかに構築しているのかを検討することを通じて、島嶼社会における伝統と近代の相克を解明しようとしてきた。2年目にあたる本年度の前半では、初年度以来、基礎作業として進めてきた、19世紀末以降のドイツ、日本、アメリカによるミクロネシア地域の植民地統治過程と現地人の植民地経験に関する調査研究の成果公表をおこなった。とくに、日本文化人類学会では、他分野・他地域を専門とする研究者とともに、分科会「旧南洋群島における日本統治経験-文化的同化政策と現地住民」を組織し、パラオ、マーシャル、ヤップなどの事例から日本の同化政策が現地社会に与えた持続的影響の比較検討をおこなった。本年度の後半では、パラオ共和国で現地調査を実施するとともに、ミクロネシア連邦ヤップ州を短期訪問した。具体的には、パラオの伝統的首長が親族集団の土地に対して保持する強い権限に注目し、土地訴訟と首長位称号継承争いの関連性を調査した。また、パラオ諸島のアンガウル島では、日本統治下の燐鉱採掘の実態、外国人労働者の流入と既存の村落社会の再編、太平洋戦争末期の軍事的展開に伴う現地社会への被害、アメリカ統治下で顕在化した燐鉱採掘の補償問題などを調査し、植民地期の開発や列強の戦争に起因する土地問題の実態を検討した。さらに、ミクロネシア連邦ヤップ州では歴史保存局を訪問し、将来的な現地調査の準備およびパラオ社会との比較検討のための情報収集をおこなった。これらの研究成果の一部は、日本オセアニア学会での口頭発表などを通じて公表した。
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