自己と他者が関与する動作場面(特に二者間での物体の受け渡し場面)を理解しているときの脳内活動を調べるfMRI実験を二つ実施した。実験1では、実験参加者は画面の手前の人物(自分とみなして観察)と奥の人物(他者とみなして観察)が対面して物体を受け渡す映像を観察した。一方の人物が二つの物体を差し出してどちらを受け取って欲しいかの要求を出し、もう一方はそのどちらかの物体を受け取った。参加者は物体を受け取る人物(「自己」もしくは「他者」)が相手の要求どおりの動作を行っているかを評価した。その結果、自分と他者のどちらが受け取るかにかかわらず、要求に反する動作の観察において右下前頭回(BA45/47)の賦活が見られた。また、物体を受け取る動作を観察するときに、自己視点の人物が右手を用いるときと他者視点の人物が左手を用いるときではともに左上頭頂小葉の賦活が見られ、自己視点の人物が左手を用いるときと他者視点の人物が右手を用いるときではともに右上頭頂小葉の賦活が見られた。実験2では、画面の手前、もしくは画面奥に一人だけが登場する映像を用いた。それ以外の条件は実験1と同様とした。その結果、要求に反するかどうかの条件間で脳活動に顕著な差は見られなかった。左右上頭頂小葉の活動パターンは実験1と同様であった。以上の結果は、能動的に動作を行う人物が使用する手の左右判断については登場人物が一人でも二人でも大きな差はないが、動作の適切さ判断については一人と二人で差が生じることを示している。右下前頭回の活動については、二者間で要求に反する動作を観察しているときに運動の抑制に関する処理が強まる可能性などが想定される。
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