社会的な生活を営む上では、ときには自他の視点の違いを考慮して、他者に合わせて自分の行動を調整する必要がある。2009年度は、このような状況下での動作選択過程に関する脳活動をMRI装置を用いて調べた。実験協力者は、要求に応じて明るさの異なる3つの円筒の中からひとつを取って手渡す映像を観察して、他者(画面奥の人物)の要求に合わせて自分(画面手前の人物)が適切な円筒を手渡せているかどうかを判断した。遮蔽物を入れることにより、他者からは円筒が2つしか見えない場面を設定した。自他で要求の解釈が一致しない場合には、他者から見た明るさの円筒を選択している動作を適切と判断するように教示した(例:「明るい」円筒を取るように要求され、自他のそれぞれから見える最も明るい円筒が一致しない場合、他者から見た最も明るい円筒を手渡していれば適切な動作)。自他の視点に応じて要求の解釈が一致するか(「一致」「不一致」)、適切な動作選択か(「適切」「不適切」)を要因とした。「不一致>一致」を分析した結果、右側頭-頭頂-後頭接合部(TPO junction)、左下頭頂小葉(IPL)、楔前部(precuneus)を含む領域に有意な活動が見られた。また、「不一致・適切>一致・適切」を分析したところ、右背外側前頭前皮質(DLPFC)などの領域に有意な活動が見られた。以上の結果は、他者視点からの適切な動作を選択する際には、必要に応じてTPO junctionやprecuneusの機能により他者視点からの視覚情報が取得されること、自己視点から解釈される適切さの判断を抑制する処理に右DLPFCが関与することを示している。
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