当研究室で分離・同定された乳酸菌、Lactococcus lactis QU 5およびL.lactis QU 14が生産するラクティシンQ/Zは、その構造新奇性や生化学的な諸特性から、これまでに報告例のない新たなタイプの乳酸菌バクテリオシンであると考えられる。代表者は、未だ知見のないラクティシンQ/Zの生合成機構の解明を目指し、3つのサブテーマ、すなわち(1)ラクティシンQの菌体外輸送・自己耐性機構の解明、(2)生合成遺伝子群の発現制御機構の解明、(3)ラクティシンQ/Z生合成機構の比較解析に関して研究を行った(以下研究報告)。 (1)ラクティシンQ異種発現株および導入遺伝子群(lnqBCDEF)の網羅的欠損株の構築により、ラクティシンQの菌体外輸送・自己耐性能の詳細が明らかとなった。すなわち、菌体外輸送と自己耐性能は、LnqEFの二つのサブユニットからなるABCトランスポーターによって主として担われており、LnqBCDは膜上のアクセサリータンパク質として、ラクティシンQの菌体外輸送を仲介していることが明らかとなった。以上のような機構は、他の乳酸菌バクテリオシンには見られない新規な機構である。 (2)新規な転写調節因子LnqRを見出した。LnqRはTetRファミリーと呼ばれるリプレッサータイプの転写調節因子と相同性を示すものの、ラクティシンQの生合成機構に関しては正の制御因子として働いていることが明らかとなった。以上のことは、LnqR過剰発現時におけるlnqQBCDEF遺伝子群の転写量の増加、ラクティシンQ自己耐性能の向上、およびラクティシンQ生産量の大幅な増加によって示された。 (3)L.lactis QU 14染色体上のDNAシーケンス解析を行い、ラクティシンQ類縁体であるラクティシンZの生合成遺伝子群(inzRZBCDEF)を特定した。また、両生合成機構の機能互換性の検討により、それぞれのバクテリオシンに対する交差耐性は確認されたものの、菌体外輸送や発現制御機構には十分な機能互換性が確認されず、それぞれのバクテリオシンあるいは生産菌に応じた生合成遺伝子群の変異が示唆された。
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