本研究では、マレーシア・サバ州において、Forest Stewardship Council(FSC)による森林認証を取得しているデラマコット森林施業区周辺を主調査地とし、そこに住む先住民スンガイの村落を対象にして、森林認証導入による社会・文化・経済的インパクトに関する研究をおこなっている。本年度は、マレーシア内の他州(サラワク州や半島部)において森林認証(マレーシア版を含む)を取得している地区との比較調査をおこなった。 マレーシアは国独自のMTCC認証制度を作り出すことにより、広域の認証林を創出したが、MTCC認証材では欧米で他の認証材のような高付加価値が期待できないことが明らかになった。MTCCは国際的な認知を求めFSCとの相互認証を目指したが、そのためには生物多様性の保全や先住民の慣習的な権利を保障する必要性があった。しかしMTCCは現行の法・行政システムを遵守する姿勢を取っているため、その要求を満たすことが難しかった。またFSCとの相互認証には、先住民NGOなどの幅広い利害関係者が策定プロセスに参画し、公開性・透明性のある環境のなかで意志決定が行われることが求められていたため、相互認証が進まなかった。そこでMTCCは、木材業界が中心となって設立したPEFCとの相互認証を目指し、組織配置を変更し、認証機関の独立性を高めた。このことによって、2009年に相互認証が認められた。MTCCはPEFCとの相互認証を実現したが、FSCとMTCCの基準を比較すると依然として大きな違いがあることが明らかになった。 森林認証制度は本来、森林施業での生物多様性の保全や先住民の権利保障を求めるものであったはずである。しかしマレーシアでのMTCC導入のプロセスでは、ヨーロッパ諸国やPEFCなどとの相互認証獲得をめざし、独自の基準をいかにして国際的に認知させるかという点に議論と活動が集中していた。MTCCの基準では、先住民の権利については既存法以上の保障は行わないこととなっており、森林認証を取得しても、森林伐採による先住民への影響が起こることが予測される。
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