研究概要 |
高温領域で非常に良好な熱電特性を示すReSi^<1.75>は正方晶系のCll_b構造中のSi原子が規則的に欠損した特異な空孔規則を伴う超格子構造を有する.本年度の研究ではその特異で複雑な結晶構造を球面収差補正のなされた最新型の電子顕微鏡を用いて,高角散乱環状型検出器走査透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM法)および明視野走査透過電子顕微鏡法(BF-STEM法)と呼ばれる手法を用いて解析を行った. これまでの研究においてもHAADF-STEM法を用いてその原子位置を決定しようとした研究があったが,その空間分解能の不足のため原子空孔の位置を決定することは不可能であった.しかし,昨今の球面収差補正技術の進展に伴い走査型電子顕微鏡の分解能は飛躍的に向上した、最新の走査型電子顕微鏡を用いて観察を行った結果,原子空孔の位置をはっきりと決定することができた.さらに,原子空孔付近の原子のコントラストが他の原子空孔と隣接しない原子のコントラストと比して弱くなっていることが分かる.このようなコントラストの減少を計算機シミュレーションを用いて詳細に解析した結果,原子空孔の周りでは他の原子サイトよりも広い空間を有することから熱振動が非常に大きいということが明らかとなった,原子の熱振動が電子顕微鏡上でコントラストを有することを実験的にこれほどはっきりと示した例はなく,多くの分野において重要な知見となると考えている. これまでの研究でReSi^<1.75>は他のシリサイド半導体と比べると,非常に低い熱伝導率を有することが分かっていたが,今回の観察結果から大きな熱振動をする原子-"Rattling"(揺れ動く)運動をする原子-によって熱の伝導を担うフォノンが散乱されているということが分かった.
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