本研究では、リグニン生合成の最終段階であるモノリグノールの脱水素重合反応の機構解明を目指し、モノリグノール配糖体を利用した実験室的脱水素重合反応の解析を行った。まず、3種(G、S、H型)のモノリグノール配糖体の西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)触媒脱水素重合は、糖残基の効果により均一系で進行し、その一方で、対応するモノリグノールの不均一系での重合挙動を非常によく反映することを明らかにした。このことから、配糖体のHRP触媒重合がモノリグノールのHRP触媒重合挙動を均一系で解析する有効なモデル反応となることを見出した。そこで、配糖体の均一系重合をスペクトル分光法、液体クロマトグラフィー法によりモニタリングし、脱水素重合過程での構造変化を経時的に追跡する手法を確立した。3種のモノリグノールのうち、S型モノリグノールの実験室的脱水素重合では人工リグニン(DHP)がほとんど生成しないことが既往の研究から知られている。そこで、配糖体による脱水素重合のモニタリング法を用いて、3種のモノマーのHRP触媒重合挙動の違いを調べた。その結果、他の2種の重合とは異なり、S型モノマーの重合では極めて安定なS型キノンメチド中間体が系に堆積していることを明らかにした。これに基づき、キノンメチドの解消を促進する求核試薬アジドイオンの存在下でS型モノリグノールのHRP触媒重合を行ったところ、DHPが高収率に生成することを見出した。以上の結果から、S型キノンメチドの低い反応性が、S型モノリグノールからのDHPの低収率と低重合度の一因であることをはじめて実証した。
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