平成21年度は、前年度に引き続き、フィールド調査を行い、11月まで約7ヶ月間、現地に滞在した。調査内容は、従前からの研究対象である靴製造業に加えて、同調査地におけるカバン製造業と、国内での国産靴・カバンの流通、一般消費者の購買行動等についてである。 調査の成果であるが、まず靴の製造・流通については、90年代後半以降、関税の大幅引き下げにより、流通主体のブティックや百貨店が、安価な輸入品の割合を高め、国内への発注割合を落とすといった流れが続いてきたところに、この数年で国産を見直す動きが興り、国内靴製造業衰退が底を打ちつつあるということが分かった。その牽引役が、カタログショッピングやネットワークビジネスのスキームを活用したダイレクトセリング(以下、DS)という業態だ。DS業者は、製品の国内発注と、手頃な販売価格の両立を達成し、消費者の支持を集めている。DSが急速に浸透してきた背景には、品質と価格に加えて、ディーラーによるカタログ販売が、うまくフィリピンの社会システムに適合したことがある。ディーラーの販売基盤計は自身の家族や友人が主体であり、それ故、信用販売がスムーズに行われ、販売促進の原動力となっている。また、銀行の内国為替や郵便制度が未発達という状況下、ディーラーを介した取引には合理性が認められる。 次に、カバンの製造・販売については、靴ほど輸入品による打撃を受けず、製造業者の経営は比較的安定していることが分かった。その理由は、カバン製造が靴製造よりも、より労働集約的特徴が強く、賃金水準も国際競争力があり、価格面や納期で対抗できるからであろう。ここでも、靴同様、DSの存在感は増しており、大量かっ安定的な受注を期待できるため、DSとの取引を望む業者は多い。以上のように、今年度は、流通分野への研究の発展を達成できたといえよう。
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