低リン土壌に成立する熱帯林生態系では、樹木のリン獲得や利用効率において適応が発達していると考えられる。個葉レベルでは、落葉前のリン再吸収や葉寿命長期化が報告されているが、他の適応機構は知られていない。私は、「低リン土壌における個葉光合成リン利用効率の増加」および「光合成リン利用効率を最大化するような葉リン画分の最適化」というオリジナルな仮説を立て、それを検証した。 まず、ボルネオ島熱帯林における野外調査および他地域の研究文献を基に、地球規模の個葉データセットを構築し、土壌リン濃度と光合成リン利用効率の関係を調べた。その結果、熱帯降雨林やオーストラリアをはじめとする低リン土壌に生育する樹種ほど、光合成リン利用効率が高いことが解明された。また、光合成リン利用効率の増加には、葉リン濃度の低下が大きく寄与することが解明された。この成果は、現在、Journal of Ecologyに投稿中である。 次に、ボルネオ島において、土壌リン可給性の異なる3つの林分間で、葉リン画分を比較した。葉リン画分はKedrowski(1983)の手法を用いて4種類・(脂質・核酸・糖リンなどの易溶態・その他)に分画した。その結果、脂質を除く3つの葉リン画分において、低リン土壌の林分ほど画分中リン濃度が低いことが解明された。従って、低リン土壌に生育する樹木は、低いリン濃度の葉(すなわち、光合成リン利用効率を最大化している可能性がある葉)を実現するために、核酸および糖リンなどを減少させている可能性が示唆された。
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