低リン土壌に成立する熱帯林生態系では、樹木のリン獲得や利用効率において適応が発達していると考えられる。個葉レベルでは、落葉前のリン再吸収や葉寿命長期化が報告されているが、他の適応機構は知られていない。本研究では、その適応機構として、光合成のリン利用効率に着目した。 まず、ボルネオ島熱帯林における野外調査および他地域の研究文献を基に、地球規模の個葉データセットを構築し、土壌リン濃度と光合成リン利用効率の関係を調べた。その結果、熱帯降雨林やオーストラリアをはじめとする低リン土壌に生育する樹種ほど、光合成リン利用効率が高いことが解明された。また、光合成リン利用効率の増加には、葉リン濃度の低下が大きく寄与することが解明された。この成果は、Journal of Ecologyにおいて発表された。 次に、ボルネオ島キナバル山の土壌リン可給性の異なる3つの林分において、それぞれの林分で7樹種(それぞれ3個体)の樹冠から陽葉を採集し、その葉リン画分を比較した。葉リン画分は、4種類(脂質・核酸・糖リンなどの易溶態・その他)に分画した。その結果、脂質以外の画分では、低リン土壌の林分ほど画分中リン濃度が低いことが解明された。従って、光合成リン利用効率を最大化する葉は、核酸および糖リンなどを減少させている可能性が示唆された。また、同時に、葉リン画分とリン再吸収率を比較したところ、核酸や脂質のリン画分も再吸収されていることが示された。この結果は、貧栄養土壌に対する植物の適応において、窒素とリンの葉内での動態が大きく異なることを示すものである。
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