熱帯降雨林は貧栄養な土壌上に成立しており、特に土壌中で樹木が利用可能な可給態リンに乏しいことが示されてきた。従って、低リン土壌に生育する熱帯樹木は、リンを効率的に一次生産などに利用するメカニズムを発達させていることが考えられてきている。本研究では、個葉スケールにおけるリン利用効率増加をもたらす生理生態学的メカニズムを解明するため、葉内リン画分の濃度および配分比率と個葉リン利用効率の関係を検証した。 キナバル山の土壌リン可給性の異なる3つの熱帯山地林において、各森林に優占する樹種7種(計21樹種)の生葉リンを構造態リン(リン脂質など細胞膜やオルガネラを構成する画分)・核酸態リン・代謝に関わるリン・残渣リンの4つに分画し、それぞれの画分のリン濃度を測定し、比較検証した。 その結果、土壌リン可給性の低下に伴い、いずれの画分のリン濃度も低下するが、画分間のリン配分1比は変化しないことが解明された。リン配分比が変化しないことは、光合成のリン利用効率の増加・葉寿命の長期化・生葉リン濃度の低下を同時に実現するメカニズムとして重要であることが示唆された。また、このような低リン環境への個葉スケールでの適応機構は、葉リン濃度の決定においても重要であり、本研究の結果は近年盛んに研究が行われている生物体の窒素・リン比の生態学的意義の理解を深める一助となると考えられる。本研究の成果はJournal of Ecology誌において公表された。
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