本年度は、幕府直轄領行政役所文書の史料群構造とそこにおける「公文書」管理体制に関する研究を予定していた。その一環として、地域役所に勤めた幕府下級官僚たちと役所「公文書」の関係を取り上げる論文を発表した。即ち、幕末期に近世的な役所文書管理体制が確立していく中で、下級官僚たちがどのように行政情報にアプローチし、技術上の知識を深めるために、自己や属する社会集団のもとに情報を蓄積して利用していったのかという点を解明した。本年度後半においては、同様の視点に基づく研究を掘り下げる為、地域役所に所属した幕府下級官僚の史料の発掘と調査を重点的に行った。更に幕府地域行政の統轄機関である勘定所の関係史料も採集した。 また本年度は、江戸時代の地域行政から近代の地域行政制度への移行の問題を検討する予定であった。残念ながら近代までは分析が及ばなかったが、幕末開港期に外国問題に対応するため配属された長崎奉行所の官僚群について検討した成果を学会で報告し、先例や家格を重んじる近世的な論理に基づく官僚編成とは異なる能力本位の採用が長崎奉行によって目指されたこと、いわば近代的な地域行政官僚編成の萌芽がみられたこと等を指摘した。 計画していた、外国で開催される学会での研究発表は、年度をこえるものの2011年4月にアメリカ(ハワイ)で予定しており、幕府直轄都市長崎における官僚組織(特に地役人)の18世紀における変化とその影響について報告する。
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