研究概要 |
高温超伝導体中の磁束量子の散逸構造について,テラヘルツ領域での複素電気伝導度を測定することで新たな知見を得ようという最終的な目標の第1段階として,昨年度(1年目)は測定システムを構築した。今年度(2年目)は様々な種類の超伝導薄膜に関する測定を行い,測定システムおよび解析手法のさらなる改良を行った。 まず,高温超伝導薄膜体La_<2-x>Sr_xCuO_4のキャリア濃度を幅広く変化させた薄膜試料について,ゼロ磁場における複素電気伝導度を測定した。そ的結果,超伝導のゆらぎと解釈できる変化が超伝導転移温度の2倍程度の温度から見つかり,マイクロ波伝導度での研究結果と大変よく整合する結果となった。さらに、超伝導ゆらぎの性質が試料のキャリア濃度とともに明瞭に変化するふるまいを観測した。 また,近年発見された鉄系の超伝導体について,超伝導ギャップエネルギーなどの超伝導物質における基礎的な物理量を測定することを目標として電気伝導度測定を行った。測定対象はCoドープBaFe_2As_2(以下,122系試料)およびFeSe_<0.5>Te_<0.5>(以下,11系試料)の薄膜試料を用いた。122系試料では,超伝導ギャップエネルギーを見積もることに成功した。また、11系試料では超伝導転移温度が低いために現在のところ測定周波数領域に超伝導ギャップを示唆する特徴的なエネルギースケールは明瞭に観測されていないが,超伝導転移温度以下で超流体密度が増加する傾向を観測した。 ゼロ磁場での測定と並行して,光学系に超伝導マグネット付きのクライオスタットを組み込むクレーンの設計を行ってきた。来年度(3年目)はこの超伝導マグネット付きのクライオスタットを用いて,本研究の最終目標である磁場中伝導度測定を行う。 本年度の研究で得られた成果を,国際学会3件,および国内学会3件で発表した。また,鉄系超伝導体のテラヘルツ伝導度測定に関する結果を,現在アメリカ物理学会誌に投稿中である。
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