本研究は、生活様式や社会構造が社会性狩蜂のなかでも最も多様であり、行動学的・社会生物学的研究においても注目されてきたアシナガバチ亜科において、未だに分類学的研究の進んでいないParapolybia属の種分類を整理するとともに、チビアシナガバチ族全体を網羅した属間・種群間の頑健な系統関係仮説を構築し、旧世界でチビアシナガバチ族の様々なグループに見られる分断分布の成立要因、またRopalidia属で見られる2つのコロニー創設様式について考察することが目的である。本研究によって、社会性狩蜂で見られる複雑な社会構造の進化、および旧世界の熱帯域を中心に分布する昆虫類の生物地理学的研究において参照可能なフレームワークを提供できる。 本年度はまず、Parapolybia属についてこれまで蓄積してきた標本およびアメリカ自然史博物館等から標本を借り出し、分類学的研究を進めると同時に、本属について種レベルで形態形質・生態学的形質・分子データなどのデータを収集し、暫定的な系統関係解析を行った。さらに台湾にて現地調査を行い、チビアシナガバチ族の標本採集を行うとともに、台湾各地の標本収蔵機関にてアシナガバチ類のタイプ標本等を精査した。 また、Ropalidia族のみならず、本族の系統関係を構築する際に外群として用いるほかのアシナガバチ亜科・スズメバチ亜科についても同様に種レベルで形態形質・生態学的形質・分子データなどの収集に取り組み、膨大なデータを蓄積することができた。またこれらの成果の一部については学会誌に投稿準備中である。
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