海洋性の好熱菌は、その生体構成分子が耐熱性・耐塩性に優れている。本研究では、海洋熱水環境由来の新規バイオマテリアルとして、鉄還元微生物が産生する導電性線毛(微生物ナノワイヤー)の探索および応用展開を目的としている。本年度は、導電性線毛産生微生物探索の基盤研究として、山川町沿岸熱水環境における鉄還元菌の分離培養に注力した。 微生物分離培養の結果、Chloroflexi門細菌やThermus属細菌などの鉄還元能を有する複数の微生物株の分離に成功した。Thermus属内では、これまでにThermus scotoductus 1種のみが鉄還元能を有することが知られているが、導電性線毛の報告は未だに皆無である。その一方で、既報のThermus属細菌においては、複数種の線毛の存在が示されていることから、本研究で得られた複数のThermus属細菌株は、導電性線毛を探索する上で有力な候補微生物であると考えている。Chloroflexi門細菌株は、その16S rRNA遺伝子の配列からChloroflexi門内においてsubphylum(亜門)レベルで新規な系統である可能性が示唆された。Chloroflexi門細菌は、これまで環境中からの16S rRNA遺伝子のクローン解析において、普遍的に検出されてきたが、その分離培養はあまり進んでいない。本研究で得られた分離株は、Chloroflexi門において初めて鉄還元培養条件下で分離培養に成功しており、今後、同培養条件を用いることで、新たなChloroflexi門細菌の分離につながる可能性が期待される。また、鉄還元能を有するChloroflexi門細菌の発見は、環境中の鉄や有機物などの物質循環における同門細菌の新たな役割を示唆している。
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