昨年度は、修士課程での契丹小字によって表記された漢字音から契丹語の音韻体系の再構を試みる研究を続けた。6月21日には、日本言語学会第136回大会において「契丹小字で表記された漢字音から見た契丹語音韻体系の研究」という題目でこれまでの研究成果を発表した。また、修士課程では扱うことができなかった漢語文献に漢字音写によって残された契丹語を契丹語の音韻体系再構のデータとして用いることで、研究が大きく進展した。漢字音写語は、契丹語の音声を反映した資料であるので、これらを用いることでより契丹語の音声の実態に近づいた音韻体系の再構が可能となった。これによって、従来の契丹語の音韻体系に関する研究をさらに進展させることができた。この研究成果については、学会誌などで発表する予定である。さらに、歴史学、言語学、考古学の研究者からなる学際的な「契丹文字研究会」を定期的に開催し、発表や情報交換などを行い、単に契丹文字、契丹史に対する理解を深めただけではなく、他分野の研究者の研究姿勢とその方法論を学ぶことができた。また、北京大学図書館に所蔵されている敦煌文献に残された、ブラーフミー文字によって音注を附した漢文経典に対する研究を行った。この研究成果は、『京都大学言語学研究』第27号pp.169-188において「ブラーフミー文字で音注を附した漢文経典について-北大D020『金剛般若波羅蜜経』-」として発表した。これによって、10世紀の漢語西北方言について新たな知見がもたらされた。
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