・昨年度は、契丹語の音韻に対する研究をモンゴル語の音韻史の観点から進めた。具体的には、モンゴル諸語に見られるモンゴル文語の母音間の阻害音の脱落が契丹語の同源語においてどのように反映されているかについて考察を加えた。その結果、契丹語はモンゴル文語以前に使用されていた言語であるにもかかわらず、モンゴル文語で文字<K>あるいは<Q>によって表記されている音が、多くの場合すでに脱落していることが明らかになった。契丹語とモンゴル諸語との関係は未だにはっきりと解明されていないため、この研究はモンゴル語史の観点からも重要である。この研究成果については学会誌等で発表する予定である。 ・2009年8月5日から2009年8月14日までモンゴル国ヘンティ県における契丹文字銘文の調査を行った。調査をした銘文はアラシャーン=ハダ、サルバル=オール、エルデネ=オールに存在している。これらの銘文は以前より存在が報告されたものではあるが、これまで十分に調査がされてきたとはいえない。今回の調査によって契丹文字資料の記録が行われた。これらの銘文の研究は報告者の博士論文の一部となる予定である。さらに、今回の調査の研究成果の一部については、東京文化財研究所文化遺産国際協力コンソーシアムより報告書として出版される予定である。 ・1月15日より、日本学術振興会の優秀若手研究者海外派遣事業によって米国インディアナ大学に留学し、Gyorgy Kara教授のもとで契丹小字によって表記された漢字音から契丹語の音韻体系の再構を試みる研究を進めた。これは報告者が以前より研究を進めていたテーマであるが、契丹語との関係が指摘されている中期モンゴル語文献における漢字音の表記や14世紀のウイグル文字ウイグル語文献に見られる漢字音の表記によって、より明解に契丹文字と契丹語の音韻との対応が明らかとなり、契丹語の母音調和の性質に関する研究も大きく進展した。この硬究成果については学会誌で発表する予定である。 ・歴史学、言語学、考古学の研究者からなる学際的な「契丹文字研究会」を定期的に開催し、発表や情報交換などを行い、単に契丹文字、契丹史に対する理解を深めただけではなく、他分野の研究者の研究姿勢とその方法論を学ぶことができた。
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