本申請研究は、湖沼や海洋の底泥に生息するアナモックス(嫌気性アンモニア酸化)微生物の生理生態および窒素動態への寄与を明らかにすることを目的とする。 昨年度の検討において、淡水域から汽水域、海域でそれぞれ異なるアナモックス細菌群集が生息する可能性が示唆された。平成21年度は、これまでの検討で最も高い潜在アナモックス活性が検出されている茨城県の淡水湖(北浦)を中心として研究を行った。平成21年度研究計画は、1.「メスシリンダーを用いたマイクロコスム実験で硝酸イオン添加によるアナモックス細菌集積効果の検討」ならびに、2.「フィールド調査によるアナモックス細菌分布と環境因子の関係解析」に設定した。 その結果、当初の研究目標に貢献する以下の成果を得た。 (1)活性の低い地点の堆積物を用いて、硝酸塩を継続的に添加した結果、16週後にアナモックス活性は増強された。しかしながら、16S rRNA遺伝子を標的としたPCRクローンライブラリー法で集積前後のアナモックス細菌相を比較した結果、接種源の堆積物中でマイナーであったグループが16週間後には優占的に検出された。この集積されたグループは北浦における高アナモックス活性地点で見出されるグループとも異なっていた。 (2)淡水湖中の地点間比較(水平方向の比較)ならびにホットスポット地点堆積物における鉛直分布調査を行い、アナモックス細菌分布と環境因子の関係を解析した。この淡水湖の堆積物表層における潜在アナモックス活性の水平分布を調査した結果、北浦の北東部の地点で顕著な活性が検出された。また、物理化学的因子の中では底層水中の硝酸イオン濃度との関係が窺えた。堆積物中に生息する硝酸イオン還元細菌によってアナモックス代謝の反応基質である亜硝酸イオンに変換されるか、あるいはアナモックス細菌自身が硝酸イオンを利用している可能性が考えられた。
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