本研究の目的は、中央ユーラシアにおける騎馬遊牧民としては最古の史料をの残した突厥(6世紀中葉〜8世紀中葉)について、歴史学的側面から研究を進展させることにある。その際、モンゴル高原に現存する碑文史料を文献史料として解読することはもちろん、碑文の所在する考古遺跡を踏査することも目的とした。 本年度は、おもに現地における調査に特化するため、夏期と冬期の二度にわたりモンゴル国に渡航して関連遺跡を訪問した。2008年8月の調査では、ハンギタ・ハット遺跡、ゴルバルジン・オール遺跡など、従来、簡単な報告しか出されておらず、十分に実態が把握されていなかった遺跡のGPSによる位置確定を行い、史料の現存状況を確認することができた。また、2009年1月の調査では、ウランバートルに所蔵されている遺物を実見調査することができた。年度を通じ、日本国内においては、既に将来済みの数点の碑文拓本を精査することができた。 以上の成果として、2篇の学術論文を発表した。先ず、突厥の武人宰相であるトニュククの碑文(8世紀成立)について。古代トルコ語研究において懸案であった一単語の語義を究明することができた。碑文テキストの全訳注を発表することは本研究の中心課題であり、そのための材料を蓄積し、方法論を確立することができた。次に、その拓本が確認されてこなかったチョイル碑文(8世紀成立)について。この碑文に関してはこれまで拓本が発表されたことがなく、先行研究の読解をトレースすることさえ不可能であった。そのような研究環境に対して、碑文の拓本写真と全テキスト訳注を世界に先駆けて公開し、断片的な記述を突蕨政権の展開の中に位置付け、かつ突厥の埋葬文化の一側面を抽出することができた。本年度の研究は、今後の遊牧民の諸相を把握するための基礎的情報を提示しかと言えよう。
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