2008年度に引き続き、法概念論と時間論の関係にっき、英米の法哲学、分析哲学、社会学などの文献を中心に購読し、知見を深めた。そして1:存在論上の時間論を法概念の哲学的基礎に、2:社会学上の時間論を法内容の正統化基礎として、両者を統合する法理論を構築する見通しをつけた。順次、執筆を進めており、最終年度たる2010年度にその集大成を公表する予定である。 2009年度中に執筆した論文は、(1)吉良貴之「私の生の全体に満足するのは誰なのか-Whole Life Satisfaction説の諸相」(仲正昌樹編『近代法とその限界』御茶の水書房、2010年)、(2)吉良貴之「世代間正義と将来世代の権利論-権利主体はいかにして存在するか」(愛敬浩二編『講座人権論の再定位2巻人権の主体』法律文化社、2010年秋予定)の2本。(1)は幸福論におけるWhole Life Satisfaction説を取り上げ、その記述的妥当性を吟味するとともに、意味論的・時間論的含意を考察した。これは上記2に対応し、福祉(welfare)概念の通時的把握の基礎となるものである。(2)は上記1に対応し、本課題全体の実践的含意を考察するものである。世代間正義論における将来世代の権利論は、適切に再構成するために規約主義(conventionalism)的に将来世代の主体性を擬制するという構成をとる必要があることを確認した。
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