本年度は粒子径が十数nm程度の遷移金属粒子、特にFe-Co合金およびCuナノ粒子の合成を試みた。液相還元法の一種であるポリオール法を用い、反応温度や界面活性剤種等、適切な実験条件の選択により、目的としたサイズ近傍の金属ナノ粒子合成に成功した。ここで、高分子系の界面活性剤であるポリビニルピロリドン(以下PVPと記述)を添加して作製した粒子は、PVP無添加のものと比較して特に優れた耐酸化性を示した。本手法を用いて作製した粒子の表面近傍の情報を得るため、Fe-Coナノ粒子に対し高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた表面観察およびX線光電子分光(XPS)測定による表面状態の評価を行った。TEMによる像観察の結果、粒子表面に厚みが2nm程度の極めて薄い酸化物層の存在が確認された。XPS測定の結果、生成物組成によらず粒子表面はコバルトリッチであり、Co-0由来のピークが明瞭に観測、粒子表面はCo酸化物が支配的であることが示唆された。また、PVP添加条件で作製した粒子の場合には、C-1s部においてPVP中に存在するC=0またはC-N由来のピークが観測された。ここで、PVPを用いて合成したCuナノ粒子が特に高い耐酸化性を示すこと、入念な粒子洗浄処理を行っていることを踏まえると、PVPは単に生成物中に混在しているのではなく、粒子表面に強固に結合した状態であると推察される。粒子表面分析の結果より、薄い酸化物被膜の存在、PVP分子の存在および粒子表面とPVP分子との化学結合による不飽和結合手の封入の三点が、本手法を用いて合成した遷移金属ナノ粒子が比較的高い対酸化性を示す要因であると示唆された。
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