本年度の研究では、これまでの準備を踏まえて、鈴木大拙や田辺元、西谷啓治といった京都学派周辺の近代日本の哲学者・思想家の宗教思想について、それぞれの立場からの道元解釈を検討することによって明らかにする研究に集中的にとりくんだ。 北陸宗教文化学会のシンポジウム「鈴木大拙『日本的霊性』の現代的意義」での提題をもとに執筆された論文「「霊性」再考」では、近代日本の代表的な禅思想家で京都学派との交流も深かった鈴木大拙と道元との関係を考察した。そこでは、鈴木大拙の禅思想と道元の禅思想とのずれを指摘することを通して、道元の立場から見た鈴木の思想の問題点と、現代においてそれを読み直す可能性とについて考察した。 日本宗教学会における口頭発表「道元解釈から見た西谷啓治の禅哲学」では、西谷の講話『正法眼蔵講話』を、他の研究者による『正法眼蔵』解釈と対比しながら読み説き、西谷の解釈の独自性と問題性とを指摘した。そしてそこに、西谷の宗教哲学そのものの独自性と問題性とを探る道を開いた。『倫理学年報』に掲載予定の論文「道元の「行」と田辺元の「行為」」は、昨年度の口頭発表に手を入れて、論文の形に仕上げたものである。口頭発表「衛藤宗学と京都学派の哲学(二)」は、昨年に続く口頭発表であり、衛藤即応の曹洞宗学と京都学派の宗教哲学とに触れつつ、近代日本の仏教思想の多様性を描いた。 これらの研究においては、各所で西田幾多郎の思想に言及されており、京都学派周辺の他の禅思想家との対比を通して、西田の思想的独自性が浮び上がらされている。 その他、今年度の研究成果としては、以前執筆した英語論文"Tanabe Hajime's Logic of Species and the Philosophy of Nishida Kitaro"が、論文集に収録され、海外の読者に入手しやすい形で公刊されたことも特筆しておきたい。
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