年度はじめに、余白挿絵詩篇の絵画化について、大阪市立大学で開催された日本ビザンツ学会全国大会において発表した。研究の基盤となる手法及びその方向性を、予め明確に打ち出して、諸家の見解を仰ぐためである。曖昧な分類で進められていた同写本の挿絵について改めて定義し直すとともに、今後の可能性を示唆することができた。 科研費を用いた調査では、ロンドン、ブリティッシュ・ライブラリーにて『ブリストル詩篇』及び同館所蔵の詩篇写本を調査した。研究の中心を占める、重要な『テオドロス詩篇』については、調査時にロイヤル・アカデミーで催されていた展覧会に出品されていたため、他の写本と同じ条件での調査は叶わなかったが、門外不出とされる『クルドフ詩篇』、『パリ詩篇』や『パルマ福音書』、『マリア讃歌』といった重要な写本の数々と併せて確認することができた。また、オックスフォードのデューク・ハンフリー図書館、クライスト・チャーチ図書館において、各館所蔵の、挿絵を有する詩篇写本を調査した。 両図書館での実地調査に基づいて、余白挿絵詩篇比較対照データベースの情報を修正・追加することができた。図版では確認できなかった部分やコディコロジカルなデータを得ることができ、特に、実見かなった『ブリストル詩篇』に関しては、4月に発表した内容と強く関連する、極端にリテラルな要素を見出すことができた。これらの調査の成果をまとめて、2009年5月の美術史学会全国大会(於京都大学)にて発表する予定である。
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