本研究における課題は、分散型リーダーシップ概念を分析枠組みとし、学校現場における教育改善の実践メカニズムを解明することと、学校改善の実践と相補的に組織される新たな教育ガバナンスの構造を明らかにすることである。本年では、この課題に向けて理論および調査研究を行なった。 第一に、スピラーン(Spillane)が実践論として展開する分散型リーダーシップを、新たな教育行政システムの理論構築へと応用すべく、エルモア(Elmore)の教育制度論との比較検討を行なった。その結果、分散型リーダーシップにおける「実践」の概念は、教育ガバナンスを構成する各主体の相互作用に基づく「学習(learning)」と、組織および制度全体の「能力(capacity)」拡大の論理をもたらすことから、教育行政システムの構造理解に有益な理論ツールとなることが明らかとなった。 第二には米国大都市学区の教育ガバナンス改革の調査研究を行った。その結果、シカゴ学区における改革は、先行研究にあるような新自由主義教育改革の単純な論理では説明できず、学校の「学校委員会」を舞台とする保護者と教職員の民主的な議論と実践の実態を明らかにすることができた。またボストン学区の教育改革に着目した結果、ボストンの学区全体の学力向上の背景には、学校現場の教育専門職の職能向上と学校の自律性を高める目的で、ボストン市長と教育長、教育専門職、NPO団体らが相補的な関係を築き、自らのシステムの「能力」向上を追求する実態が明らかとなった。 本年の研究における意義は、実践論としての分散型リーダーシップを教育における制度論へと発展させ、米国の教育ガバナンス改革の構造と「実践」の実態分析のツールを導き出し、さらに現実の教育改革の事例研究を通すことで、そのツールを実証的にも発展させていることにある。
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