本研究における課題は、分散型リーダーシップ概念に基づき、学校現場における教育改善の動態を実証的に解明すること、そして学校改善の実践と相補的に組織される教育ガバナンスの新たな構造を明らかにすることである。本年は、前年度で追求した理論研究およびボストン学区の教育ガバナンスの改革状況をもとに、事例研究としてボストン学区のとある小学校で調査研究を進めた。 調査研究では、学校長が自律的な条件の下でいかなる方針のもとに学校改善を追求し、そのための校内組織改革を行っているかについてインタビュー調査をした。その結果、教師が実践から導き出す教育課題を学校全体で共有し改善に結びつける組織づくりを意図されていることが明らかとなった。これは、教育実践者である教師と経営管理に従事する校長他管理職との相補性を意識した組織改革であり、分散型リーダーシップ概念に基づく学校改善の志向が拡大していることの表れとも言える。また、学校が学校だけで改善に取り組むわけではなく、外部NPOの力を積極的に借り、教師が学校改善に関わる際のサポート体制を整えている実態が明らかとなった。この連携は、教師の「学習」を促進させ、学校の「能力(capacity)」向上を実現させるリーダーシップの分散の理念と適合する。つまり現代米国学区では、各学校において教職員の相補性を高め、彼ら彼女らの「学習」を促進させることにより、学校という枠組みの「能力」を拡張させていくダイナミズムがはたらいているのである。
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