細菌のべん毛は、膜内外の共役イオン(H^+あるいはNa^+)の電気化学的ポテンシャル差をエネルギー源にして回転する運動器官である。べん毛モーターのエネルギー変換機能を明らかにするために、固定子タンパク質PomA/Bのリポソームへのin vitro再構成とNa^+取り込み活性の解析を行った。リポソームを添加した無細胞タンパク質合成系PURESYSTEMでのPomA、PomBの合成に成功した。また、合成されたPomA、PomBはリポソームに自発的に挿入し、プルダウン実験とゲル濾過クロマトグラフィー実験の結果から、合成したPomA、PomBの膜上での相互作用を検出した。このリポソームを使い、放射性同位元素^<22>Na^+を用いて、Na^+取り込み活性を測定したが、有意なNa^+の取り込みは検出できなかった。無細胞タンパク質合成系で合成したPomBはN末端が切断されていたが、GFPをN末端に融合したとき、あるいはPomB-P11、P12に変異を導入したとき、N末端の切断が抑圧された。in vivoで、PomB-P11、P12変異体は野生型と同様な機能を持っていた。この成果は、私か筆頭著者の論文としてJournal of Biochemistry誌2008;144(5):635-642に掲載された。これまで可溶化に使われていたオクチルグルコシドより安定に可溶化できるCHAPS、Cymal-5を用いて、PomA/B複合体の精製・再構成を行った。現在Na^+の取り込みの検出を試みている。本年度の研究により、無細胞タンパク質合成、細胞からの精製両方においてPomA/B複合体を用意することができ、系の構築のための準備ができた。最後に、共役イオンの透過メカニズムと駆動力産生の解明のために変異体を作成し解析した。べん毛モーターの回転に必須なPomB膜貫通領域のアスパラギン酸残基(PomB-D24)の電荷を中和してもべん毛を回転させることのできる、PomAの膜貫通領域のサプレッサー変異(PomA-N194D)を同定した。これによって、PomA/B複合体のイオン結合と駆動力産生に対する新しい知見を得た。
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