SU(N)ゲージ理論では、N個のクォークでカラーのないバリオンができる。超弦理論の立場では、このバリオンは、5次元球面に巻きついたD5ブレーンと、それにくっつくN本の弦の束として表される。本年度は、D3ブレーンによって歪められた10次元ブラックホール時空中に、D5ブレーンとストリングを埋め込むことで具体的にバリオンを構成し、SU(N)ゲージ理論の有限温度、非閉じ込め相で、バリオンがどのように振舞うのかを超弦理論を用いて調べた。 D5ブレーンの運動方程式を解くと、カスプ状の特異点が現れ、この特異点にD5ブレインの張力と弦の張力がつりあうようにN本のストリングをくっつけることで、弦理論の立場でバリオンを具体的に構成することができた。ところが背景時空にブラックホールが存在すると、D5ブレーンにくっついているN本のストリングうち、(N-k)本のストリングをブラックホールの地平面に入りこませることができる。ここで、kはN未満の任意の正の整数である。そのような解は、ゲージ理論の立場では、カラージンクレットではないk(<N)個のクォークの新たな束縛状態を表している。しかし、エネルギーを調べるとこのようなカラーのある束縛状態はカラーのないバリオンに比べて不安定であることが分かった。 また、クォークの新たな束縛状態に対応するD5ブレーンの別の解も構成した。この解では、D5ブレーンは二つの特異点を持ち、この二つの特異点にそれぞれk個のストリングが互いに逆向きにくっつけることができる。このような束縛状態は、k個のクォークとk個の反クォークの束縛状態に対応している。とくにk=2の時は2008年にBelle実験(KEK)で発見されたテトラクォークに対応する解の可能性がある。
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