今年度は、特に十六世紀後半〜十七世紀前半に制作された「戦国合戦図屏風」「源平合戦図屏風」に描かれた武士と彼らの装いについての分析を中心に研究を進めた。画中には、様々な甲冑や武具を身に付けた武士の姿が描かれている。先行研究において、画中の描写は当時の武装を忠実に再現しているわけではなく、新旧の形式が入り混じる表現と指摘されてきた。また身分の高さを指すために、古様な武装描写を用いたとされるが、その原因について踏み込んだ考察は行われていない。 この点を踏まえ、「戦国合戦図屏風」の代表例とされる『関ヶ原合戦図屏風』(大阪歴史博物館)、『大坂夏の陣図屏風』(大阪城天守閣)を対象に武装描写の分析を行った。その結果、様々な武将の装いには「変わり兜」を思わせる意匠が選択されている中で、徳川家康のみを鍬形の前立をつけた星兜(筋兜)に大鎧といった古様な武装を用いて表現している事実を確認した。 さらに、現存する「源平合戦図屏風」としてきわめて重要な京都・智積院本「一の谷合戦図屏風」の調査が実現し、急速に研究が進展した。天真寺本についても資料調査をおこない併せて新知見を得るにいたった。調査に基づき、文学作品(諸本本文)との対応関係、および武装描写を中心とした源平合戦図屏風との比較研究を綿密に進めた。成果をまとめ美術史学会全国大会に応募し、審査を経て口述発表が決定している。また、本研究は美術史のみならず、軍記文学研究の領域においても寄与するものと考え、軍記・語り物研究会において発表を予定している。今後は、他の絵巻作品における合戦場面の描写の検討、合戦、武装に関する文献史料の収集と分析を進めることで、研究はさらに進展しよう。
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