今年度は、江戸初期の戦国合戦図屏風の代表的作例とされる「関ヶ原合戦図屏風」(大阪歴史博物館蔵)、「大坂夏の陣図屏風」(大阪城天守閣蔵)に焦点を当て研究をまとめ、美術史学会全国大会にて口頭発表を行いその成果を論文にまとめた。分析の結果、江戸初期の戦国合戦図屏風では、合戦の勝者である徳川家康の権威を高め、彼の存在を屏風絵中に際立たせるために、家康を当時としては、古様の大鎧、星兜、鍬形前立の姿で意識的に描き、他の武士と明確に描き分けていることを明らかにした。この武装描写は、家康周辺で意図的なコントロールの下で生まれ流布した表現であると考えられ、外様大名であっても幕府への接近を図る大名家において共有されたことを指摘した。 また、本研究は、軍記文学研究の領域においても寄与するものと考え、智積院所蔵の「一の谷合戦図屏風」(以下、智積院本)の表現の特徴を考察し、軍記・語り物研究会での研究発表を行い、その成果を論文にまとめた。智積院本は、変わり兜といった新たな武装を合戦の経過、展開を読み解く上で重要なモチーフとして積極的に描きこみ、場面同士に有機的なつながりを生んでいることを指摘した。従来の様式比較とは別な見地から、智積院本を同系統の一の谷合戦図に先行する独自の表現を持つと結論づけた。加えて、今年度は、ジョン.C.ウェーバー氏所蔵「一の谷・屋島合戦図屏風」、「保元・平治合戦図屏風」(メトロポリタン美術館)の調査・熟覧の機会を得ることができた。 今後は、これらの作品の分析に加え、合戦絵巻、甲冑肖像画の特徴についても併せて考察しながら、源平合戦図屏風の衰えない享受の背景を探り、戦国合戦図屏風との関係性を改めて考察する。
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