本研究はスイスの欧州原子核研究機構(CERN)のLHC加速器で実現される世界最高エネルギーでの鉛原子核衝突の際に生成されるボトモニウムから放出されるミューオンをアトラス実験のミューオン検出器を用いて捉え、衝突時に生成される高温高密度QCD物質の性質を調べることを目的とする。 本年度はミューオン検出器、特にトリガー部分の準備、運用、データ取得、較正を主目標とし、長期間現地に滞在し、研究に取り組んだ。ミューオン検出器は長年の建設の最終段階にあり、全てのケーブルの接続を完了させ、テストパルスを用いてタイミングを調整し、宇宙線やノイズトリガーを用いてデータを取得し、十分に高いトリガーレートでもデータ取得ができることを確認した。取得したデータはオンラインで解析し、ハードウェアやソフトウェアの問題箇所を発見し、素早く修繕し、衝突実験に万全の態勢で臨めるようにした。9月に行われたLHCの初めてのビーム周回時にはミューオン検出器が予定した精度でタイミングが揃っていることを迅速に確認できた。その後のLHCの故障のため衝突のデータは取得できなかったが、替わりに大量の宇宙線のデータを取得し、ミューオン検出器の理解、較正、解析プログラムの改善を進めている。これらのコミッショニングの成果をつくば市で行われた検出器の国際会議で発表した。 今後2年で取得できるデータ量でクォーコニウムの測定がどこまで進められるかシミュレーションを用いて研究し始めた。また日本物理学会のシンポジウム講演において、本研究員が平成19年まで取り組んでいたアメリカのブルックヘブン国立研究所におけるPHENIX実験でのチャーモニウム研究を総括し、LHCでのボトモニウム研究の課題を議論した。
|