本研究は、スイスの欧州原子核研究機構のLHC加速器で実現される世界最高エネルギーでの鉛原子核衝突の際に生成されるボトモニウムから放出されるミューオン対をアトラス検出器で捉え、衝突時に生成される高温高密度QCD物質の性質を調べることを目的としている。 本年度は長期間現地に滞在し、ミューオントリガー検出器の理解を主導的に進めた。このために科学研究費補助金の多くを旅費として使用した。前年度に取得した宇宙線のデータを解析し、ほぼ期待通りの検出効率を持つことを確かめた。シミュレーションを現実により近いものにするために、ケーブル接続、トリガー論理を現実と同じものに変更したが、検出効率についてはビーム衝突のデータでより理解が進んだ後に変更することにした。トリガー論理を検証するためのソフトウェアを開発・検証し、99.5%以上の演算は正しいことを確認した。クォーコニウムの測定には2個のミューオンを同時に捉えるダイミューオントリガーが重要であるが、シミュレーションを用いて、実際に1個しかないのに2個あると判定してしまう割合が以前の研究よりも高く、対処が必要なことを明らかにした。11月末からの重心エネルギー900GeVでの陽子衝突では、データ取得開始後すぐにトリガー回路に問題点があることを発見し、その問題点を考慮すれば、ほぼ期待通りの性能が得られていることを確認した。この問題点は1月までには解決された。3月末からの重心エネルギー7TeVの陽子衝突では、それまでの経験を生かし、開始から1日以内に900GeVでのデータを上回る統計量を用いて、性能を検証した。 10月には国際会議でミューオンの飛跡再構成に関する発表を行なった。
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