本年度は、大正後期から昭和初期にかけて官僚制内に政党内閣への不満が蓄積され、政党と官僚との関係が悪化していく過程を明らかにすることに努めた。その一環として、本年度前半においては、東京都内の各図書館で史料収集を行うとともに、関西に二度出張し、神戸大学社会科学系図書館野村文庫、大阪府立中央図書館大原文庫、京都府立総合資料館などで史料の閲覧・複写を行った。このうち、野村文庫に所蔵されていた昭和初期の逓信省の部内資料は、政党内閣下で自主財源の確保を図った同省が諸外国の制度を参照にしながら通信事業の特別会計化を進めていったことを示すものであり、本研究に大きく資するものであった。また、大原文庫には技術者団体である工政会が発行したパンフレットが所蔵されており、同会の主張する経済・産業政策構想の全貌を知ることができた。これらの資料から、逓信省や技術官僚のなかで、二大政党の経済・財政政策とは異なる政策構想が生まれ、それが政党内閣に対する反発へとつながっていく様相が読み取ることができた。 本年度の後半では、これらの史料収集によって得られた知見に基づいて、昨年度に提出した博士論文での議論を発展させることに集中した。また、憲法史研究会、内務省研究会で研究発表を行った。さらに、本研究で得られた知見に基づいて、事典の項目執筆や学界展望などの原稿を執筆した(いずれも来年度に活字化される予定である)。
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