光合成細菌進化の地球史を通した総合的な理解を目指して、好気的な紅色細菌のグループや絶対嫌気的な緑色硫黄細菌、あるいは酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアの生理生態を、同位体化学的な手法を用いて解明する研究に取り組んでいる。本年度の第一の取り組みとして、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたクロロフィル色素の分子レベル窒素・炭素安定同位体組成分析のための単離精製法を開発した。海水・湖沼水懸濁物試料および表層堆積物中のクロロフィル色素及びその初期分解生成物(フェオフィチン、シクロフェオフォルバイドなど)については、二段階のHPLCにより単離を行うことに成功した。この手法を用い、福井県の水月湖で得られた第四紀の堆積物コア試料からクロロフィル色素類を単離し、その炭素及び窒素の安定同位体組成を測定し、最終氷期以降の光合成一次生産の質的な変動を解明した。また、黒海で得られた表層堆積物からクロロフィル色素類を単離し、その炭素14年代を測定し、この海域におけるクロロフィル類の生産・分解・保存のダイナミクスの理解を試みている。一方、世界各地域の水域の表層堆積物を分析してクロロフィルdを検出した。これにより、従来考慮されなかったクロロフィルdの吸収波長領域の太陽光(700-750nm)が、実際には海洋の一次生産に少なからず利用されていることを示した(Science誌に報告)。また、本年度の第二の取り組みとして、古い堆積岩中に取り込まれているクロロフィルの続成生成物(ポルフィリン)に由来する化合物であるマレイミドを酸化的な処理により抽出し、HPLCで精製して、その窒素及び炭素の安定同位体組成を測定する手法を開発した。この過程で、太古代末期の堆積岩から緑色硫黄細菌に起因すると考えられるマレイミドを検出した(AGU 2008 Fall Meetingにて報告)。
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