研究概要 |
2008年に8.2mすばる望遠鏡と可視広視野撮像装置Suprime-Camを用いて取得した観測データを解析した結果,移動天体656個を検出した.推定した軌道長半径が2-3.3AUの天体をメインベルト小惑星と定義すると616個がそれに該当し,そのほとんどは直径1km未満の微小小惑星だった.観測バイアスを排除したサンプルを選出し,軌道傾斜角15度を境界に分けた2つのグループそれぞれで累積サイズ分布を調べた.それらを直径0.7-2.0kmの範囲でべき乗則を用いて近似すると,そのべき指数は低傾斜角のグループで-1.79±0.05,高傾斜角のグループで-1.62±0.07という値を示した.これはメインベルト小惑星のうち,軌道傾斜角が低い集団よりも高い集団の方が累積サイズ分布の傾きが浅いことを意味している. この結果をより直径の大きな小惑星でも確かめるため,カタログデータと観測データから得られた累積サイズ分布をつなぎ合わせ,直径0.7-50kmの範囲でべき乗則による近似を行った.低軌道傾斜角のグループからは-2.17±0.02,高軌道傾斜角のグループからは-2.02±0.03という傾斜値を得、広いサイズ範囲においても後者の方が浅い傾斜を持つことが分かった.また,2グループ間の累積サイズ分布の傾斜差はどのサイズ領域でも同程度であることも示された. 考察の結果、高軌道傾斜角グループの累積サイズ分布傾斜が浅いのは,重力支配域における直径-衝突破壊強度曲線の傾斜が超高速度衝突下ではより急になる,すなわち天体が破壊されにくくなると結論を得た.これは超高速度衝突が頻繁に起こっていたとされる,惑星形成最終段階での微惑星の衝突進化を探る上で大変重要な情報である.
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