研究概要 |
人工心臓システムの要素技術である経皮エネルギー伝送システム(TETS)の誤作動は,患者にとって致命的になりかねないため,高い信頼性が求められる。システムの信頼性を低下させる原因はいくつかあるが,本研究では,電磁環境工学(EMC)的立場におけるシステムの信頼性向上を中心に,検討を行っている。平成20年度の成果を以下に列挙する。 1.電気的特性(誘電率・導電率)を生体に一致させた模擬生体(電磁ファントム)の検討を行うため,電磁ファントムの充填・除去が容易な構造を有する電気的特性測定装置の研究・開発を行った。これを用い,電磁ファントムの電気的特性を測定し,電磁妨害(EMI)の評価に必要な周波数帯域において模擬生体としての妥当性を明らかにした。さらに,模擬生体にTETSの体内部分を埋め込み,EMIに関する評価と低減に向けた検討を行った。種々の工夫を施すことにより,TETSをEMIに関して薬事法に適合するシステムとすることができた。 2.現在のところ薬事法に基づいたEMC試験項目には存在しないものの,今後人工心臓システムを含む在宅医療機器が曝される機会が多いと考えられる磁界イミュニティについて,その試験内容の提案と試験用コイルの研究・開発を行った。さらに,試作した試験用コイルを用いてTETSの磁界イミュニティを評価したところ,人工心臓システムに悪影響を及ぼさない程度であり,十分なイミュニティを有することを明らかにした。 3.患者のQOL向上を目指し,単一装置を体表面に装着するのみで非侵襲に駆動用エネルギーと制御用情報を伝送できる一体型経皮トランスフォーマの検討を行った。エネルギーと情報の同時伝送の際に生じる相互干渉を,トランスフォーマの巻き方に独自の工夫を施すことにより,分離フィルタを用いることなくこれを低減し,エネルギーと情報の同時伝送が可能であることを示した。
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