癌抑制タンパク質p53は様々な遺伝毒性ストレスに応答して活性化し、下流の種々の標的遺伝子の転写を活性化させて細胞周期停止・アポトーシスを誘導する。四量体形成はp53のDNA結合、翻訳後修飾、安定化に必須である。p53の変異はヒト悪性腫瘍で最も多く認められる異常であり、癌遺伝子治療の重要なターゲットの一つである。本研究では、四量体形成ドメインおよびDNA結合ドメインに変異を持つ変異型p53の機能回復を目指し、『四量体形成ドメイン変異型p53の構造を安定化させる新規化合物の開発』および『DNA結合ドメインの変異に対する非ヘテロオリゴマー形成性の改良型p53の開発』を目的としている。 前年度までに、二種のカリックス[6]アレーン誘導体を合成し、イミダゾリル基を持つイミダゾールカリックス[6]アレーンがp53-R337H変異体の四量体構造を安定化させることを明らかにしている。細胞内p53転写活性を解析する蛍光レポーターシステムを用い、カリックス[6]アレーン誘導体がp53の転写活性に及ぼす効果を解析した。その結果、四量体構造の安定化効果を示すイミダゾールカリックス[6]アレーンにより細胞内のp53-R337Hの転写活性を増加させることに成功した。また、R337H四量体構造の安定化を示さなかったピラゾールカリックス[6]アレーンでは転写活性に変化が見られなかったことから、イミダゾールカリックス[6]アレーンによる転写活性の増加は四量体構造の安定化を介した活性増加であることが示唆された。このカリックスアレーン誘導体による転写活性の増加は、p53の四量体構造を安定化した事による機能修復の初めての例である。
|