本年度の研究では、まず目的である大規模溶媒和構造の実験的解明のため、巨大サイズ水和クラスターM(H_2O)nの分光実験装置・手法を開発し、H^+(H_2O)_<n〓200>に対する赤外分光を成功させた。また、得られたスペクトルを詳細に解釈することで、水の水素結合ネットワークが分子数の増加とともに、1配位分子の消失→2配位分子の激減→4配位分子の増加といった過程を経て成長していくことを解明した。凝縮相の水に特徴的な4配位分子の存在は、これまでの10分子程度からなる小さなクラスターでは観測されておらず、最大200分子という桁違いの分子数を対象とすることで初めて確認された。この結果は巨大サイズクラスターの研究によって100分子以上の関与する大規模溶媒和構造、更には凝縮相の構造を議論することの可能性を示しており、あらゆる化学反応を理解・設計する際に、溶媒分子を多量に含めて考えることにつながると期待される。 また、本年度の研究では、溶媒分子が直接関わる化学反応についても赤外分光によって重要な知見を得た。芳香族求核置換反応は基礎的な反応であるが、その反応機構は完全に解明されてはいない。本研究では溶媒和型クラスター[C_6F_6(NH_3)]^+の赤外分光により、溶媒としてのアンモニアが芳香環を求核攻撃した状態の反応中間体を観測することに成功した。この結果により、芳香族分子の反応設計、反応機構の理解が大きく進展すると考えられる。またこの結果はNature Chemistry誌のResearch Highlightsに紹介されるなど、化学一般に大きなインパクトを与えた。
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