研究概要 |
本年度は,擬似基質によるシトクロムP450_<BSβ>(P450_<BSβ>)を用いた触媒系において,反応の不斉選択性の反転制御を可能とする擬似基質の探索を行った.チオアニソールのスルホキシド化反応をモデル反応とし,様々な骨格を有するカルボン酸を擬似基質としたときの,不斉選択性を調べた.触媒活性は,これまでに報告された直鎖状のカルボン酸だけでなく,ベンゼン環をもつカルボン酸も擬似基質として利用した場合にも確認された.さらに種々の芳香環をもつカルボン酸を検討した結果,不斉選択性において,フェニル酢酸及び,オルト,メタ位にメチル基を持つフェニル酢酸誘導体が(R)選択性を示したのに対し,パラ位にメチル基を持つ誘導体を用いた場合では,(S)選択性に反転することを見いだした.Insight II/Discover3により,フェニル酢酸とこれらの誘導体が結合した状態のP450_<BSβ>の構造計算を行い,不斉選択性の反転機構を検討した.得られた構造を比較した結果,オルト位やメタ位のメチル基は,基質が活性部位に取り込まれたときに相互作用を及ぼさない位置であったのに対し,パラ位のメチル基は,基質の取り込み口であるチャネルに位置しており,基質との立体的反発を引き起こすことが予想された.したがって,パラ位のメチル基と基質との立体反発による基質のコンフォメーション変化が,不斉選択性を反転させる要因となっていることが考えられた.以上の結果により,擬似基質を用いる本手法は,酵素に加えるという簡便な操作のみで,酵素機能を制御・改変可能な手法となる可能性が示された.
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