再生医療実現化に向けた新規組織工学技術の開発のために、炎症反応に着目して研究を遂行している。現在のところ、移植後に引き起こされる炎症反応が、移植後の培養細胞の増殖・分化の方向づけに影響を及ぼしていることを明らかにしている。今年度は、培養細胞を自家移植、他家移植、免疫欠損マウスへ移植を行った際に誘導される炎症反応を解析し、炎症性サイトカインや増殖因子といった移植後に産出される因子の同定を行った。実験系は、培養上皮細胞を背部皮下に移植し、移植部位に侵出してくる炎症細胞を免疫染色法によって同定し炎症反応の方向性を確認し、移植後に産出される滲出液に含まれるたんぱく質をELISA法で検出し、またそれらのたんぱく質を産出している移植部位の遺伝子発現をR-TPCRによって確認を行った。そして、これらの実験で候補となった因子を培養系に添加し、実際に培養細胞の増殖・分化に作用しているかを確認した。自家移植、他家移植、ヌードマウスへの移植の解析結果より、どの移植系に移植しても、炎症初期に観察される炎症過程はほぼ同様であり、移植細胞の維持は急性期炎症反応が過ぎた後の炎症反応の違いによって生じていることが分かった。また、移植後の上皮細胞に作用している可能性の高い因子はIL-1、IL-6、IL-12であり、培養系への添加実験により、IL-1が大きく作用していることを明らかとした。このような実験結果より。移植後の組織再構築に作用する因子を同定し、培養系に応用することで、これまで不可能であった増殖・分化の制御を生体外で行い、感染などの恐れのないより安全な再生医療実現を目指している。
|