研究概要 |
亜鉛濃度が河川底生動物群集に及ぼす影響を評価するために,以下の2つの研究を実施した。 1.河川上流域における亜鉛濃度の影響 上流に廃鉱山が存在する,兵庫県市川,宮城県迫川,山形県寒河江川の3水系における計25地点(約半数は亜鉛濃度が30μg/L(亜鉛の水質環境基準値)未満)における野外調査結果に基づき,亜鉛濃度の影響を評価した。統計解析の結果,底生動物群集の種多様性は基準値の2倍程度の亜鉛濃度でも顕著に減少しないことが示唆された(岩崎ら,投稿準備中)。日本を含む海外においても,野外調査結果からこのような結論を示した研究はほとんどなく,学術的にも有用な結果が得られたと考えられる。また,2003年に設定された水生生物の保全を目的とした亜鉛の水質環境基準の妥当性を検証する上でも,貴重な知見が得られたと思われる。 2.河川下流域における亜鉛濃度の影響 上流域と下流域では,潜在的に生息する底生動物相が異なる。また,下流域においては工場排水や生活排水等の流入により,有機汚濁の進行した地点が多く存在するため,すでにその影響により底生動物の生息が制限されている可能性がある。本研究では,2008年8月及び2009年3月に,下流域に相当する群馬県碓氷川水系及び粕川での野外調査を実施し,現在解析を進めている段階である。 また,亜鉛の水質環境基準及び排水基準に関わる問題について整理した論文が環境科学会誌に受理された。本論文は,水生生物の保全を目的とした水質環境基準等の策定を今後検討していく上で,重要な問題提起及び視点の提供を行っている。
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