記憶形成のプロセスと神経活動の相関関係を明確にするためのラット用の統制された行動課題の開発と、海馬と大脳皮質のニューロン活動の大規模同時記録を可能とするための実験システムを構築した。 まず行動課題について、海馬が関与している事が先行研究で報告されている条件性連合課題をラット用に適用した遅延条件性音-位置連合記憶課題を開発した。この課題はラットに音の種類と反応する穴の位置の連合学習を要求するものであり、刺激呈示期間および弁別反応までの遅延期間におけるラットの行動をノーズポークにより統制することができる。実験の結果、音のピッチや呈示時間の長さを刺激として使用でき、この課題により連合学習のプロセスを調べることが可能であることが分かった。この課題によって、海馬や大脳皮質の神経活動の可塑性と記憶の関連性について明らかにできるものと期待される。 海馬と大脳皮質のニューロン活動の記録をする実験システムについて、個々の電極を独立に操作可能なマイクロドライブ(電極のマニュピレータ)の改良を行った。まず個々の電極の位置を微細に調節して記録可能なニューロン数を増やすために、14本のテトロード電極(記録電極12本、基準電極2本)を独立に操作可能なマイクロドライブを作製した。また、海馬と大脳皮質からのニューロン活動の同時記録を可能とするために、前述したマイクロドライブを更に改良し、海馬と前頭前野に記録電極を同時に埋め、個々の電極を独立して操作可能なマイクロドライブを開発した。これらのマイクロドライブによって、条件によっては数日間にわたり同一のニューロンの活動を記録できる可能性があることが分かった。これら二つの実験技術を応用することで、記憶形成のプロセスと神経活動の間の関係性を明らかにすることにより、記憶のメカニズムの一端を解明することができると思われる。
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