北極海海氷激減の引き金である太平洋起源の熱流量を推定するため、現場観測データおよび複数の衛星データ(海面高度計・散乱計・放射計)を用いた、ベーリング海峡東部での「流量推定モデル」・「鉛直水温プロファイル推定モデル」を構築した。ベーリング海峡の推定熱流量は、今後の海氷変化の把握だけでなく、より現実的な再現を行うための数値予報の境界条件としても重要である。得られた推定流量は現場係留ブイの流速観測結果とよく一致した(R^2≒0.53)。得られた推定熱流量の時系列は、2004年〜2007年の熱流量がそれまでの約1.6倍になったことを示しており、2004年になんらかの気候変化があったと考えられる。2008年は西部北極海にて「みらい」「おしょろ丸」による計2回の海洋観測を実施した。両観測から夏季の海氷分布が激減している中で、基礎生産が上がるもしくは減少しない海域はチャクチ海陸棚域・バロー峡谷周辺・ノースウィンド海嶺に限定されることが示唆された。例えばチャクチ海陸棚域では、海底地形と海氷融解に伴う淡水注入による時計回りの流れが、北西ロシア領域の栄養塩豊富な水塊を輸送し、高クロロフィル水塊が維持されていた。またノースウィンド海嶺では、海洋循環の強化による等密度面の上昇に伴って、栄養塩と光が利用できる水深帯自体も上昇し、0.5μg/L以上のクロロフィル値が観測された。そのほかの海域では、混合層が深いか、もしくは栄養塩が無いために基礎生産が変わることはない。つまり海氷融解のタイミングが早くなり、光を利用できる環境が整ったとしても基礎生産の増加が見られる海域は、海底地形と流れに支配されると考えられる。
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