近年、北極海では夏期における海氷面積が激減している。この海氷減少は海氷循環および海洋循環を変化させ、さらに海洋生態系に対しても影響があると指摘されている。本研究では、海氷-海洋循環の激変を引き起こすトリガーである太平洋水に着目し、船舶観測および衛星リモートセンシングを用いて、北極海へ注入される太平洋起源の海洋熱を明らかにした。具体的にはベーリング海峡から北極海への、太平洋水の流量および熱フラックスを推定する方法を開発した。推定された熱フラックスは現場観測結果とも整合性があり、今後の西部北極海における海洋熱の変動を理解する上で重要な指標である。また北極海海氷-海洋循環モデルの境界条件としても有用であり、すでに他の研究機関において利用されている。 また2008年・2009年に西部北極海(チャクチ海・ボーフォート海)において、海洋観測を実施し、近年の海氷-海洋循環の変化が海洋基礎生産場をも変化させている兆候を捉えることに成功した。
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