研究概要 |
まず研究目的について述べる.Fathi('98),Namah-Roquejoffre('99)らの研究を初めに,近年,非定常Hamilton-Jacobi(HJ)方程式の解の長時間挙動(時間を無限にした時の解の漸近的振舞い)の研究が盛んに行われてきた.これらの研究の中で,周期境界値問題を除くと境界値問題はこれまであまり扱われてこなかった.このような背景の下で,状態拘束境界条件またはDirichlet境界条件を課したHJ方程式の初期値・境界値問題について考察した.特に,境界条件がどのように解の長時間挙動に影響するかを重点的に調べた.研究成果として,これらに関する新しい結果を得た.具体的には,上記の問題の解かある定常問題の解に一様収束すること,その漸近形がどのように初期値,境界値に依存するかが分かった.研究方法は,1980年代前半に導入された粘性解理論を利用した.これは,偏微分方程式の一般解の一つの理論である.特に,この解け最適制御等の制御理論と関連性が深い.最近,弱KAM理論において力学におけるAubry-Mather理論とHJ方程式の粘性解との関連が研究されている.非定常HJ方程式の長時間挙動の研究はこれらと非常に関わりが深い.これらを利用することで,解の力学的構造を明らかにし,漸近形の表現公式を導いた.このようないくつかの分野に跨る研究は,数学の研究対象として大変興味深く,意義あるものであると考えている.また,上に述べた理論の利用だけに留まらず,この研究自体が粘性解理論,弱KAM理論の進展に関わることを期待する.得られた結果の応用として,最適制御理論における最小関数の長時間挙動の研究や,波面の伝播に関する研究が考えられる.以上述べた結果をまとめた論文が2偏雑誌に掲載された.研究集会・学会への積極的な参加,及び他大学の研究者との討議も計画通り行えた.
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