研究概要 |
本研究は,研究課題は,視覚・聴覚個別(モダリティ依存)および統合的(モダリティ非依存)時間知覚機構を,心理学的錯覚現象(時間縮小錯覚)を用いて電気生理学的,計算論的手法によって明らかにすることである。今年度は,時間の知覚にかかわる心理学的錯覚現象(聴覚的同化および時間縮小錯覚)の起こるメカニズムを事象関連電位(ERP)計測により調べ,聴覚における時間知覚機構を検証した。実験では,健常成人12名を対象とし,連続して呈示される3つの純音のうち,1音目と2音目によって出来る第1時間間隔(T1)と2音目と3音目によって出来る第2時間間隔(T2)の長さが同じかどうかを2肢強制選択で判断させ,得られた脳波を,刺激を受動聴取しボタンを押す統制課題の脳波と比較した。心理課題において,-80≦(T1-T2)≦+40(ms)の範囲で非対称的な聴覚的同化が生じた。ERPにおいて,時間判断に伴い2音目終了から3音目終了後400msの範囲で前頭部を中心とした右優位性の随伴性陰性変動(CNV)様の脳波が出現した。また,聴覚的同化生起時には3音目終了から200msの区間内における右前頭部の活動が減少した。本研究の結果から,右前頭部から得られる脳波は時間間隔の概均等性の決定に関する認知的処理を反映することが示された。これらの結果は2008年8月25日(月)から29日(金)までの5日間,北海道大学にて開催された第10回国際音楽知覚認知会議で英語にてポスター発表され,その結果にさらに分析知見を追加して2008年11月12日(水)から14日(金)までの3日間,神戸国際会議場にて開催された第38回日本臨床神経生理学会学術大会においてポスター発表された。なお,発表内容は座長推薦を受け,Clinical Neurophysiology誌に英文抄録掲載予定である。さらに,本実験結果の安定性と課題の妥当性を確認するために,異なる時間条件を用い,被験者8名による追加実験を行った。その結果,心理課題において,これまでの結果と類似した-40≦(T1-T2)≦+40(ms)の範囲で対称的な聴覚的同化が生じ,ERPにおいて,時間判断に伴い2音目終了後300msの範囲で頭頂部を中心とした注意成分(P300)および前頭部を中心とした随伴性陰性変動(CNV)様の脳波が出現し,これまでの実験知見に類似した成分が確認された。この結果は,2008年12月12日(水),13日(金)日間,国民宿舎虹の松原ホテルにて開催された聴覚研究会(社団法人日本音響学会聴覚研究委員会運営)にて英語口頭表された。上記の研究成果をまとめ,NeuroQuantology誌の特集(Time,Timing,and the Brain)に原著論文として投稿し,採択された。論文は2009年3月末に掲載された。
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