報告者は、1950年代における炭鉱労働者と文学の結び付きについて明かにすることを目的とし、日炭高松(福岡県遠賀郡水巻町)の文化運動に注目して、資料の調査を踏まえ分析を行った。調査としては当事者への聞き取り、九州大学記念資料館産業経済資料部門所蔵の日炭高松関係資料、法政大学社会問題研究所所蔵の戦後組合文芸誌を対象とした。それらを踏まえ「水巻町の文化運動について」1、「上野英信と日炭高松-北部九州におけるサークル運動と朝鮮人-」2、「「月刊たかまつ」について」3の三本の研究発表と、論文「戦後サークル誌にみる文学の役割-北部九州のサークル誌(1)日炭高松-」4において成果を発表している。1では、職場機関紙や会社側・行政側の機関紙「日炭高松」や「広報水巻」などの紙面に散見される様々な文化団体の存在をもとに、炭鉱における文化の諸相を論じた。2では、上野英信の短篇小説「あひるのうた」を取り上げた。作品の舞台である「アリラン租界」が実際に数多く存在したことを指摘する一方で、サークル誌に朝鮮人たち<他者>の存在が稀薄であることが当時の国民文化運動の特徴と繋がると提起し、意見を求めることができた。3では1を踏まえ、サークル誌「月刊たかまつ」を中心として、掲載作品の読解も交えながら論じた。また「サークル村」同人でもあり日本機関紙協会に務めていた当事者からの聞き取りをもとに、ガリ版文化と文化運動について問題提起を行った。1・3の合同研究会での貴重な議論を基に論文化したのが4である。発表時の内容に加えて、「新日本文学」の野間宏が日炭高松で行った座談会が基となり作られた雑誌、「高松文学」を新たに紹介し内容を検証した。他地域のサークルと広く交流を行っていたことから、ガリ版文化に支えられたサークル誌や機関紙には連帯する手段としての文学が存在していたと論じた。以上、四点が本年度の主な研究成果である。
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