採用二年目となる本年度は、北部九州のサークル誌を広く調査するとともに、1950年代から60年代にかけての日本文学史の大きな流れに対してサークル誌の位置を考察することを目的とした。資料調査としては、法政大学社会問題研究所の戦後組合文芸誌や九州大学記念資料館産業経済資料部門、福岡県立図書館郷土資料室において閲覧/複写の作業を行った。 それらを踏まえ、以下の研究成果をあげることができた。1.6月19日に立命館大学において開催された「「三池-終わらない炭鉱の物語」上映会&シンポジウム」にて「労働闘争のなかの文学-三池と文化運動-」と題する研究報告、2.商業誌「環」(「小特集 森崎和江を読む」、藤原書店、vol.38/2009年夏)にて森崎和江についてのエッセイ「背中を洗い流す言葉」を発表、3.10月には「文学館倶楽部」(福岡市文学館、9号)にて、「文学館コレクション『人民文学』」、4.11月に日本近代文学会九州支部「近代文学論集」第35号において論文「北部九州におけるサークル運動と朝鮮人-上野英信「あひるのうた」が提起する問題-」を発表した。論文では、当時のサークル誌に朝鮮人たち<他者>の存在が稀薄であることが当時の国民文化運動の特徴と繋がると提起した。調査で発掘した資料福岡県朝鮮人文芸同好会「荒波」を含めて研究報告として成果を出している。5.同じく11月に「日本近代文学」(日本近代文学会、第81集)において、「イヴェント・レヴュー何のために、どこにむかって、走るか-福岡市文学館企画展「大西巨人 走り続ける作家」」を掲載、6.12月には「原爆文学研究」(原爆文学研究会、9号)にて「研究会評「原爆言説」と「戦後文化運動」の接点をさぐる」を掲載した。以上の6項目が本年度の研究成果である。初年度より幅広い媒体で研究成果を報告をすることができ、最終年度へ向けて学際的に有意義な年度であった。
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