近年、ヒトfMRIによって、同一の機能区分に属する領野間で同期したBOLD信号の変化がみられることが明らかにされた。この同期した信号変化は、領野間の情報の伝達や、脳機能構築において重要な役割を担う可能性が考えられる。このような脳ネットワークのうち、default-mode networkと呼ばれるネットワークは大変興味深い特徴を持っている。これまで脳機能イメージングでは、主として特定の認知課題に相関した脳活動の増大を同定することに興味が向けられてきた。しかし、特に認知課題を行っていない定常状態においても、脳は多くのエネルギーを消費し、活発に神経活動を生じている。default-mode networkは、注意の集中を要するいくつかの認知課題を行う際、共通して活動が弱まる脳領域ネットワークとして発見された。逆に言えば、default-mode networkは、認知課題を行わない定常状態において常に脳活動を維持しているネットワークであり、主として、内側前頭回、腹側前帯状皮質、後帯状回皮質、海馬などから構成されている。しかし、default-mode networkの機能については、いまだ仮説の域をでていない。このようなネットワークレベルでの脳活動の解析のためには、サルを被験体として、fMRIと神経活動を操作する光技術を組み合わせた実験を行うことが、極めて有効な研究戦略となる。本年度、ニホンザルおよびコモンマーモセットにおけるfMRI実験によって、ヒトのdefault-mode networkと相同と考えられる脳領域間の同期的神経活動変化を観察した。default-mode networkの意義を解明するためには、一部を不活化し、サルの認知機能に与える影響を調べる必要がある。そのためには、光遺伝学のような神経活動を実験的に操作する技術が有効である。この技術を利用する際に、霊長類の脳にクロライドポンプのハロロドプシン等を遺伝子導入する必要がある。このため、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、霊長類中枢神経系に遺伝子導入する技術を確立した。
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