default-mode networkは、注意の集中を要するいくつかの認知課題を行う際、共通して活動が弱まる脳領域ネットワークとして発見された。逆に言えば、default-mode networkは、認知課題を行わない定常状態において常に脳活動を維持しているネットワークであり、主として内側前頭回・後帯状回皮質・海馬などから構成されている。このようなネットワークレベルでの脳活動の解析のためには、サルを被験体として、fMRIと神経活動を操作する光遺伝学の技術を組み合わせた実験を行うごとが、有効な研究戦略となる。平成21年度、霊長類のニホンザルおよびコモンマーモセットにおけるfMRI実験によって、ヒトのdefault-mode networkと相同と考えられる脳領域間の同期的神経活動変化を観察した。この意義を解明するためには、脳領域の一部を不活化したり、活性化したりすることによって、サルの認知機能に与える影響を調べる必要がある。そのためには、光遺伝学のような神経活動を実験的に操作する技術が有効である。この技術を利用する際に、霊長類の脳にクロライドポンプのハロロドプシンNpHRや陽イオンチャネルのチャネルロドプシンChR2を遺伝子導入する必要がある。このため、まずアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、霊長類の中枢神経系に遺伝子導入する技術を確立した。具体期には、アデノ随伴ウイルス(CAG promoter-EGFP)をニホンザルおよびコモンマーモセットの大脳新皮質(1次運動野や1次視覚野)、線条体に注入し、感染効率および感染様式を確認した。さらにコモンマーモセットの1次運動野にアデノ随伴ウイルス(CAG promoter-ChR2-EYFP)を遺伝子導入した。今後、光刺激によって、運動を誘発できるかどうかを確認し、光遺伝学の技術を霊長類に用いることができるかどうかを確認する。
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